なんとなく地図アプリを開いて眺めていると目につく、「史跡」を表す3点マーク。
よく通るのに意外と知らなかった場所だったりして、つい目的地そっちのけで見入ってしまいます。
尾久にある「隅田川旧防潮堤」も、無性に見に行きたくなってしまった場所のひとつです。周辺もきれいだったので、お散歩してきました。そのときの様子をご紹介します。
絶対に守る!見上げるほどの高い堤防
隅田川テラスとよばれる遊歩道の一角にある、「隅田川旧防潮堤」を目指します。
尾久の原公園を抜けて、馬頭観音があるあたりの階段からテラスに降りてみると、水のにおいがぐっと近付きました。水面を抜けてくる風がとても気持ちいいです。
尾久橋の方へ5分ほど歩くと、見えてきました。
ちょっとした石碑のようなものを想像していましたが、遠目に見ても、予想よりかなり大きくて驚きました。
到着して間近で見ると、やはり高いです。3メートルぐらいはありそうで、少し離れないと全体像がわかりません。
防潮堤なので、かつてはこれが長く連なっていたということです。想像すると、かなりの圧迫感だったのではないでしょうか。
隅田川の氾濫から暮らしを守るために、鉄壁の守りが必要だったのですね。
左右は段になっているので、座って休んでいる人もいました。
とても暑い中歩いてきたので汗だくです。私も座って水分補給していると、なぜかハトがたくさん集まってきました。ハトにとっても休憩スポットなのかもしれません。
なぜ「旧」防潮堤?隅田川と人との歴史
この大きな壁が「旧防潮堤」だということはわかりましたが、今の防潮堤はいったいどこにあるのでしょうか?
モニュメントの中央に経緯が記されているので、読んでみましょう。
「旧防潮堤」は、昭和32年から昭和50年にかけて、隅田川の高潮や洪水を防ぐためにつくられました。まっすぐ上に向かって細くなるので、「カミソリ堤防」とも呼ばれたそうです。
たしかに、横からみると刃物のようです。
「カミソリ堤防」は安心ではあるのですが、あふれた水だけでなく、普段の隅田川への眺めもさえぎってしまいます。
江戸の昔から川辺を散歩したり、水遊びをしたり、舟で魚を獲ったりと人々が親しんできた川が、暮らしから遠ざかってしまいました。
そこで持ち上がったのが、「カミソリ堤防」を「スーパー堤防」へと造り変える計画です。
「スーパー堤防」とは、氾濫から防ぐという安全面での目的をより高めつつ、人が川により親しみやすいように整備された堤防です。
街と川辺を直立ではなくなだらかな坂でつなぎ、川沿いはテラスとして歩けるようになっています。このテラスが、「隅田川テラス」です。
「隅田川テラス」というと屋形船が通る浅草のあたりが有名ですが、実は隅田川が通るいくつもの区にまたがり、32kmにわたって整備されています。
道中それらしい堤防を見かけないと思ったら、私が歩いてきたその場所が「新」防潮堤の一部だったのですね。
「旧防潮堤」から尾久橋へ
日が高くなってきてあまりに暑いのでいったん退散して、夕方に再びやって来ました。
今度は尾久橋方面から尾竹橋方面へ、テラスが続くかぎり歩いてみることにします。
ジョギングやウォーキングをする人、帰り道を急ぐ人、腰掛けて新聞を読む人、なんと釣りをする人まで。すれ違う人たちは思い思いに時間を過ごしていました。
「旧防潮堤」から尾久橋まで向かうと、5分ほど歩いたところで行き止まりになりました。
水面に反射する夕日と、尾久橋を行きかう人と電車のシルエットに情緒を感じます。奥には緑色のアーチの小台橋も望めます。
私は特に電車マニアではないのですが、足立小台駅に日暮里・舎人ライナーが発着する様子が見えるので、興味しんしんで見入ってしまいました。
この階段は、テラスへ降りることのできる最初の入口です。
このエリアには30mぐらいの間隔でベンチが置かれています。ジョギングしてきてこのベンチで一休みし、それから引き返す人も見かけました。
訪れるたびに違う表情。空と水のある風景
ジョギングのお兄さんに続いて、私も尾竹橋方面に向かってUターンしていきます。
潮位測定板があります。テラスのある地面は、「AP+2.5m」だそうです。この高さを超えてしまったら、堤防としての出番がやってくるのですね。
ビルや住宅が所せましと立ち並ぶ荒川区の中で、これほど空が広い場所は貴重ではないでしょうか。
どれも近い場所で撮った写真ですが、まったく雰囲気が違います。
風のない早朝の、鏡のように凪いだ水面。夏らしい真っ青と真っ白のコントラストに落ちてきそうな入道雲。夕立を予感させる風に波打つ水面と水草の揺れる音。
季節はもちろん、たった1日の中でも目まぐるしく表情を変える眺めは、自然ならではの楽しみですね。
「カミソリ堤防」の頃だったら、この水面に近付くことはおろか、見ることすらままならなかったわけです。歴史を知ったあとだと、川辺を散歩できるありがたみをより噛みしめることができます。
尾竹橋のたもとに到着
景色を眺めながら、さらに進んでいきます。
2つ目の入口です。「旧防潮堤」を見に行くなら、ここがいちばん近いです。
近くに緩やかなスロープもあります。自転車やベビーカー、車いすでも安心ですね。バイクは乗り入れ禁止の表示があったので、ご注意ください。
アシが生い茂り、少し狭くカーブした道を抜けると、もう少しでゴールです。このあたりは、午前中に来るとユリカモメの姿が見られることもあります。
尾竹橋のたもとまで来ました。ここに3つ目の入口である、階段とスロープがあります。尾久橋からここまで、徒歩でだいたい30分ぐらいでした。よい運動になりました!
尾竹橋のあたりには広々とした休憩スポットがあります。テラスを歩くだけでなく、近くに買い物に来たついでに、ちょっと降りてゆっくりする、という使い方もできそうです。
「隅田川旧防潮堤」と隅田川テラスは、隅田川と人との深い関わりをつなぎ直してきた歴史を今に伝えるスポットでした。ビル街での毎日が息苦しくなったら、よみがえった川辺の風を感じに行きませんか。
隅田川旧防潮堤
住所:東京都荒川区東尾久7丁目1-1
アクセス:都電荒川線「熊野前駅」から徒歩約27分
都営バス「原中学校入口」停留所から徒歩約15分