足元に隠れた歴史。東日暮里と谷中をつなぐ「芋坂」散歩

エリア&駅 東京都 台東区 谷中 JR山手線 日暮里駅
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街を歩いていると、「なぜこんな名前が?」とふしぎな地名を見かけることがありませんか。
水なんて見当たらないのに「橋」、東京なのに「富士見」など。
荒川区と台東区にまたがる「芋坂」も、そんなミスマッチを感じる名前です。普通の路地と変わらないぐらい平らに見えるからです。
ですが、歴史を知ると理由がわかってきます。実際に歩きながら、坂の痕跡を探してみましょう。

文豪にも愛された「日暮らしの里」

今回は、アクセスしやすい東日暮里から坂を登る形で歩いてみます。
日暮里駅東口からすぐ、「いも坂みち」と書かれた石標のある交差点に来ます。ここが今回のスタート地点です。

角には老舗の「羽二重団子」があり、観光客が足を止めてのぞく姿を見かけます。
江戸時代からおいしいだんごで有名なお店で、正岡子規に「芋坂の 団子屋寝たり けふの月」と詠まれたり、夏目漱石の「吾輩は猫である」に登場したりと文学作品にゆかりの深い場所でもあります。

高架下のトンネルに向かって進んでいくと、駅前のにぎわいは遠ざかっていきます。
まだ「坂」感はありません。

線路に分かたれた坂道

トンネルを抜けると待ち構えているのが、線路上の歩道橋である「芋坂跨線橋」です。
Y字型の橋脚は、古いレールを再利用してつくられたものです。
歩いてみてもあまり傾斜がないし、どこがスタートでどこがゴールなのか、「坂」という実感がいまいちわかない「芋坂」ですが、その背景には鉄道開発の歴史があります。
ひとつながりの長い坂が、線路によって分断された少し珍しい地形なのです。
1983年に京浜東北線が開通したときに、芋坂は踏切で南北に分かれました。荒川区側と、台東区側です。
その後線路が増えて踏切ではとても渡りきれないほどの距離になると、1928年前後に歩道橋がつくられ、今の姿になりました。
こんな経緯を踏まえて、日暮里駅は3社5路線が乗り入れる大きな駅になりました。

街の今を映す。穴場的トレインビュー

ここまでで電車好きの方はピンとくるかもしれませんが、「芋坂跨線橋」は隠れトレインビュースポットとして、ひそかに人気の場所です。
日暮里駅のいちばん近くで、ひっきりなしに行き交う電車を眺めることができます。これだけ主要路線が通っているので、シャッターチャンスにはいとまがありません。
私も素人ながらカメラを構えてみました。

ビルが立ち並び進化を続ける日暮里、寺町の風景を残す谷中。新旧混ざり合うこの界隈を象徴するような景色を望むことができます。
おすすめの撮影地点その1は、京成線の高架がある日暮里側から6歩ぐらい進んだ場所です。ビルの間からちょうどスカイツリーが見える位置を探してください。

柵が高いですが、隙間からカメラを近づけるようにするときれいに撮れます。スマホを落とさないように気をつけてくださいね。
その2は、橋をさらに進んで谷中側に渡りきる直前の場所です。

元々は崖だった地形がわかりやすく、谷中と東日暮里の高低差に気付かされます。だから「坂」なのです。

緑にいやされる山道の名残

橋を渡った先は台東区谷中です。自然と心が落ち着くような、のどかな雰囲気です。

コンクリートの色の違いが土地の変遷を物語っていますね。
坂標をみると、名前の由来が書かれています。一説には、山芋が採れたから「芋坂」と呼ばれるようになったと言われているそうです。
ここまで来ると、木々の生い茂る山道だったことがなんとなく想像できます。

右手に進むと天王寺があります。
前方に進むと江戸時代には上野の寛永寺のあたりまで長い道が続いていたようですが、この先は霊園なので今回はここで引き返すことにします。

道に張り出す草花がきれいです。小さい喜びを見つけられるのが散歩の醍醐味ですね。

跨線橋まで戻ってきました。谷中側から見て左手の坂道は「行き止まりです」と書いてありますが、下っていくと「芋坂児童遊園」があります。

電車好きのお子さんと遊びに来るのにはぴったりの場所ですね。
看板のとおり、公園前の道は線路に突き当たって行き止まりになります。跨線橋ができる前には、踏切があった場所です。
そして、この坂道が本来の芋坂のルートです。

消えた踏切と川の跡

跨線橋の階段を降りたこの場所が、先ほど行き止まりになった場所と踏切でつながっていました。

スタート地点まで戻ってくると正面に見えるのは「善性寺」。6代将軍家宣の生母、長昌院が葬られた将軍家ゆかりのお寺です。
実は、ここには昔「音無川」という水路が流れていました。善性寺に行くには橋を渡る必要があり、今でも門前に残るその橋は「将軍橋」と呼ばれました。
音無川は明治の終わりに地下に埋められてしまいましたが、石神井川から分かれ、台東区と荒川区の境目を通る長い川だったようです。
ここまで歩いたルートを地図アプリで振り返ってみると、線路を挟んで3つのお寺の間をぬうようにつなぐ道が浮かび上がってきます。かつての「芋坂」です。
往復20分足らずですが、背景を知れば知るほど興味をそそられるものが盛りだくさんのコースでした。
マップを片手にちょっとした古地図散歩や、フォトスポット探しにおすすめです。

芋坂
住所:東京都台東区谷中7丁目12番付近 「芋坂跨線橋」周辺
アクセス:JR京浜東北線、山手線、常磐線「日暮里駅」より徒歩約8分
京成線「日暮里駅」より徒歩約8分
日暮里・舎人ライナー「日暮里駅」より徒歩約8分

※記載情報は取材当時のものです。変更している場合もありますので、ご利用前に公式サイト等でご確認ください。
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