光の数だけ集まる願い。「隅田川とうろう流し」で浅草の夏を感じよう

お盆休みに入り、普段以上のにぎわいを見せる浅草の街頭。その日はとりわけ活気を感じると思ったら、四角い箱を持った方々が明るい声でイベントの開催を知らせている姿に気がつきました。
聞くところによると、「4年ぶりの灯篭(とうろう)流し」が開催されるということでした。隅田川のものはもちろん、灯篭流しというものを実際に見たことがありません。これは一度体験するしかない!と人の流れに踏み込んでいきました。

灯篭流しとは?

灯篭流しは、火を焚くことで死者の魂を見送る「送り火」が派生して始まったと言われています。

今でもお盆の時期に各地で開催され、亡くなった方の名前を書いて川に流し、大切な家族やご先祖さまを想う行事という側面は変わらず受け継がれています。

隅田川の灯篭流しは、戦争や東京大空襲の犠牲者を追悼し、平和を祈る「流灯会(りゅうとうえ)」として1946年に始まりました。
1966年から防潮堤の工事が始まったため灯篭流しは中断していましたが、隅田川親水テラスが整備されてから、再び川沿いに降りて眺めを楽しむことができるようになりました。

隅田川をもっと身近に感じてほしい、川とともにある文化を残していきたいという願いから2005年に灯籠流しを再開したのが、現在の「隅田川とうろう流し」の始まりです。
最近の灯篭流しでは、追悼だけではなく、七夕のように願い事を書いて成就を祈るという新たな側面も生まれてきました。

家族の形の変化や世界中の観光客が集まる土地柄を考えると、書ける内容に幅を持たせることで多くの人が参加できますし、平和祈念の輪も広がるので良いことですね。
灯篭は1つ1500円です。事前購入して家でゆっくり書くこともできますし、当日参加の人のための特設スペースでペンと机を借りて書くこともできます。

隅田川に集まる静かな熱気

18時半に流し初めの式が始まるということで、とうろうを書きながら待ちます。まだ日の落ちていない時間にもかかわらず、川沿いや吾妻橋の上にたくさんの人が集まっていました。
隅田川の両岸、浅草側と墨田区側に設置された2ヶ所の流灯台の方向を見つめながら、みなさん今か今かと待っています。

普段の吾妻橋は人がせわしなく行き交っていますが、みんなが立ち止まり、欄干に手をかけて見守っています。

やがて、小さなオレンジ色の光がポツポツと水面に現れ始めます。ろうそくの火のまたたきと、ゆらゆら小刻みに進む揺れ加減がまるで生き物のようで、なんだかいじらしくなります。

桜や花火にしても灯篭の灯りにしても、すぐに消えてしまうはかないものには特有の美しさと魅力がありますよね。

吾妻橋周辺はビルに囲まれていますし、橋もライトアップされ、スカイツリーも控えています。そのような文明の光を映す水面では埋もれてしまいそうなほどの、小さな光です。

もし灯篭の中身が電球だったら、華やかさこそ増すかもしれません。でも、きっとここまで感動しないのではないでしょうか。

芯にいつ消えるかわからないろうそくを燃やしながら、水の流れに身を委ねながら、想いや願いをほんのり浮かび上がらせている様子に、命や人生そのもののような寂しさとダイナミックさを感じました。

「マイとうろう」を流そう

見とれているうちに19時を回っていることに気づき、自分の灯篭を流しに向かうことにしました。
流灯台に向かう列には、地元の方から海外からの観光客の方まで、たくさんの人が並んでいました。

4年ぶりの開催ということで、心待ちにしていた人も多かったのではないでしょうか。
前に並んでいた家族連れは浴衣姿の子どもが灯篭を大事そうに抱えていて、なんだか微笑ましかったです。
20時まで流せるようになっていましたが、40分ぐらい余裕を持って並び始めるのがおすすめです。

流灯台はウォータースライダーのような構造になっていて、横一列に並んだボランティアさんたちがろうそくに火をつけてくれます。

水の上に灯篭を置くと、思った以上のスピードで流れていきます。流した灯篭は、そのまますべり台のように傾斜した筒を通って隅田川に出ます。
流灯台がある川沿いの遊歩道からは、灯篭をより間近に見ることができます。この景色を見られるのも、実際に灯篭を流して参加する醍醐味です。

私の流した灯篭はもう見つけられませんが、想いが届いているといいなと思いながら光の群れを眺めていました。

令和5年 隅田川とうろう流し
住所:東京都台東区花川戸1丁目 台東区立隅田公園周辺
アクセス:東京メトロ 銀座線「浅草駅」から徒歩3分
東武スカイツリーライン(伊勢崎線)「浅草駅」から徒歩3分
東京メトロ都営浅草線「浅草駅」から徒歩5分
開催日:2023年8月12日(土)
開催時間:灯篭の当日販売 14:00〜、灯篭流し18:30〜20:00

※記載情報は取材当時のものです。変更している場合もありますので、ご利用前に公式サイト等でご確認ください。